水の都 ヴェニスの夜に溶けて
絢爛たる仮面舞踏会の原流へ

かつて栄えた海に浮かぶ都市ヴェネツィアでは毎年カーニバルの時期になると豪華な衣装と仮面に身を包んだ人々で賑わう。この時期は華やかな仮面舞踏会も連夜行われる。冬のヴェネツィアで、エグゼクティブ達は素顔と名前を明かさず、夜が更けるまで踊り続けるのだ。

「水の都」と呼ばれる古都ヴェネツィアが毎年一番賑わう時期は冬のカーニバルだ。これは毎年2月末から3月にかけて2週間行われる祭典で、華やかな衣装と仮面に身を包んだ人々が街中を埋め尽くす。その歴史は古く、ヴェネツィア共和国時代の1162年に遡る。アクイレイアとの戦いに勝利した際、ヴェネツィア市民達は街の中心であるサンマルコ広場に集って踊り始めたのがはじまりだとされている。中世のヴェネツィアでは階級によって服装や振る舞い、会話してよい相手などが制限されていたのだが、カーニバル期間中だけは仮面をつけ、異なる階級の服装をまとうことで自由に振る舞ういわば無礼講とされ許容されるようになった。ルネサンス期になるとカーニバルは都市の公式行事となり、18世紀にはヨーロッパ中から人々が集まる絶頂期となったが、一時期は治安維持を理由に仮面の着用やカーニバル自体も禁止されたのだ。カーニバルがようやく復活したのは1979年、以来毎年イベントの時期には300万人が訪れるほどの世界三大カーニバルの1つとなったのだ。

仮面舞踏会の愉しみ方とは

「イル・バッロ・デル・ドージェ」は仮面舞踏会最大級かつ「世界で最も華麗な舞踏会」ともよばれており、イタリア人デザイナー、アントニア・ザウター氏が1994年に創設した。ザウター氏はヴェネツィアの伝統的な文化や美意識を現代に蘇らせることを目的とし、仮面舞踏会を芸術的なショーへと昇華させることに成功した。そして今や「イル・バッロ・デル・ドージェ」は、世界中のセレブやロイヤルファミリー、ファッションデザイナー、映画監督などが集う超一流の舞踏会となったのだ。

仮面舞踏会を彩る、最大の特徴はドレスコードの厳格さであり、参加者は全員、ザウター氏がデザインした18世紀のヴェネツィア貴族を彷彿とさせる豪華なコスチュームを着用する。一泊で貸りるだけでも数十万円すると言われている。それが何百名と着用するのだから驚きだ。贅沢な生地には精巧な刺繍など、きらびやかな装飾が施されている。舞踏会に入ると、そこは外の世界と隔離され、仮面をつけた大人達のみが集まる異世界空間。美しいドレスと仮面を身纏い、中世のヴェネツィアを彷彿させるような、幻想的なパーティに身を委ねてみてはいかがだろうか。

MASCHERA

ヴェネツィアのカーニバルに使われる仮面は象徴的なアイテムであり、歴史的・文化的にも深い意味を持つ。その起源は中世にまで遡り、仮面をつけることで身分や社会的地位の区別をなくし、人々が自由に振る舞うことを可能にしたのだ。特に、カーニバルの期間中は誰もが仮面を着けて、豪華な衣装をまとい、祭りを楽しむことができるという伝統が根付いている。また、仮面は単なるカーニバルの装飾品としてだけでなく、ヴェネツィア社会においては匿名性を確保し、政治的陰謀や恋愛関係を秘密にするための道具としても使われていたともいわれており、実にミステリアスなのだ。

VESTITO

カーニバルで着用されるドレスは、その華やかさと歴史的な背景から世界的に有名であり、主に18世紀のヴェネツィア貴族のファッションを反映している。見るからに絢爛豪華なドレスは主にバロック様式やロココ様式を基にしたデザインが多く、女性のドレスは広がったスカートと細身のウエストラインを強調するコルセットが特徴的で、実に優雅なシルエットを生み出している。絹やベルベットなどの高級な生地には豪華な刺繍やレースが施されており、深みのある赤や金、青、緑といった華やかな色が特に人気だ。モダンなデザインのドレスもみられ、ほとんどが手作りの一点物。レンタルではなくオーダーメイドで本格的なドレスを用意する人も多くいる。

BIG LIETTO

「イル・バッロ・デル・ドージェ」のチケットには、ウェルカムカクテルから幕を開ける華やかな夜の饗宴が用意されている。オープニングショーで幻想的な世界観へと誘われた後は、格式あるガラディナーが開催され、洗練された料理とともに極上のひとときを味わうことができる。続いて繰り広げられるパフォーマンスでは、仮面とドレスに身を包んだ参加者たちが、中世ヴェネツィアの栄華を彷彿とさせる優雅な時間を共有する。チケットには、これらすべてのプログラムがオールインクルーシブで含まれており、体験は一夜限りの芸術作品のように完結する。記憶に残る瞬間を永遠に閉じ込めるための写真撮影サービスも利用可能である。

饗宴は一夜では足りない
選ばれし者だけを招く仮面舞踏会へ

IL BALLO DEL DOGF

現在のカーニバル最大級の仮面舞踏会が「イル・バッロ・デル・ドージェ」。これは期間中の土曜の夜、1日限りで行われる非常にスペシャルな仮面舞踏会で、アメリカのABCでは「一生に一度は体験すべき10の体験」に選ばれたこともある。これは世界的に有名なスタイリスト兼イベントプランナーである、アントニア・ザウター氏が考案、主催するイベントで、仮面舞踏会というスケールを超えた総合芸術。豪華な舞台には世界各国からのアーティストが参加し、ガラディナーやフィナーレを飾る豪華な仮面舞踏会が行われる。また、参加者のドレスコードも非常に厳格で伝統的な仮面舞踏会にふさわしい衣装を身につけたゲストのみが入場を許されるのだ。

AT THE COURT OF THE
CREAT KHAN

アントニア・ザウター氏のプロデュースによる、ヴェネツィア・カーニバル2024年公式ディナーショー「フビライ・ハンの宮廷で」は、壮麗な異世界への旅へと誘う一夜である。本公演は、ヴェネツィア出身の冒険家マルコ・ポーロが辿った東方への旅路に着想を得ており、ベルシャ（ペルシャ）やトルコ、インドなど、彼が訪れた多彩な文化圏がテーマに据えられている。会場には、遠い異国の地の芳しい香りや、豊潤な音楽、エキゾチックな踊りが溢れる。演出の随所には、マルコ・ポーロがかつて体験したであろう異国の宮廷での祝宴を思わせる趣向が凝らされており、卓越した美意識と芸術性によって、ただのディナーショーを超えた、物語性あふれる壮麗な饗宴へと昇華されている。

THE GLASS SLIPPERS

ヴェネツィアン・グラスで有名なムラーノ島の「ガラスの大聖堂」で行われる豪華な舞踏会で、ムラーノ島の伝統である手吹きガラスのシャンデリアが圧倒的な存在感を放つ。まずはガラス職人の実演から始まり、ガラディナーやさまざまな音楽パフォーマンスが行われ、DJセットは午前3時まで続く。ドレスコードはもちろんヴェネツィア・カーニバルにふさわしい衣装が求められ、食事中以外は仮面を外してはいけないルールがある。ガラス世界の舞踏会。ぜひ参加して欲しい。