蒼の迷宮、魅惑のシャウエン
神秘に包まれたおとぎ話の世界を訪ねる
ここは山奥に佇む蒼い街。400年もの間、異教徒が立ち入り禁止だった秘境の地に、隠されたような魅惑の街が存在する。一面が蒼に塗られ、高低差のある街並みはまるで迷路のようだ。一足踏み入れば、ここはおとぎ話の世界、蒼の迷宮シャウエンで童心に戻りたい。
モロッコの大都市フェズから車を走らせること約5時間。お世辞にも、アクセスが良いとは決して言えないが、山道から突然目の前が開けて、現れる蒼い街はまさに圧巻だ。旅に精通した読者の皆様なら、蒼一色の街を一度は雑誌やテレビで目にしたことがあるに違いない。モロッコの蒼い街、通称「蒼い宝石箱」と呼ばれるシャウエンは、モロッコ北部山奥に位置する。正式名称が「シェフシャウエン」といい、街の名前はそこから見える山の頂きに由来する。二つの山の頂きがヤギのツノ(シャオウア)に見えることから、「角を見よ(シャフ・シャウエン)」と命名され、現代ではシャウエンと呼ばれるようになった。旧市街はすべて蒼色で塗られているが、よく見ると淡い色から深い色までバリエーションがあることに気がつくだろう。こうした濃淡が、街の色彩に短調ではない複雑さを生み出し、景色をより美しいものにしている。
元々イスラム王朝によって栄えた街だったが、15世紀後半にイベリア半島でのレコンキスタによってこの地に移り住んだイスラム教徒とユダヤ教徒により今の姿が作られた。この神秘に包まれた街を歩けば、アラブとヨーロッパの溶け合った文化を色濃く感じることができる。せっかくモロッコまでいったなら、この蒼の迷宮まで足を延ばして頂きたい。旅人の心を惹きつける街、シャウエンが貴方をおとぎ話の世界に誘ってくれる。
The Mystery of the Blue City in Morocco
街中を歩いているだけでまるで、おとぎ話の世界に迷い込んだかのような気分になるシャウエン。古より多くの著名な芸術家や作家も魅了し続けてきた、旅人を惹きつけてやまない憧憬の地だ。
その幻想的な街並みはどこを切り取っても絵になり、想いのままに蒼の世界の中に溶け込みたくなってしまうだろう。シャウエンは新市街と旧市街に分かれており、はじめて訪れたならば、まずは旧市街をお勧めしたい。暮れなずむ橙色の空に蒼い街並みのコントラストを望むなら「スペイン・モスク」の目の前があなたの特等席だ。
また、神秘的な蒼い建物にばかり気を取られがちだが、建築様式には異文化融合が垣間見ることができる。重厚な茶色のテラコッタの屋根は、スペイン・アンダルシア地方の建物を連想させるが、それとは裏腹に建物に庭を作らないというイスラム建築の特徴もある。山奥の秘境ならではの文化は、モロッコの温浴施設であるハマムにも表れている。都市に多くあるハマムの煌びやかなロビーやエステルームの設備はないが、ガスではなく薪で暖められた伝統的な薪ハマムを体験することができる。特にイスラム教の聖日である金曜日やその前日は身を清めたいと考える地元の人がハマムに多く訪れるため、もし日付が合えば是非出掛けてみてほしい。ハマムは地元の社交場でもあるため、まさに地元に根付いた異文化体験ができるだろう。体を清めたあとは本場のモロッコ料理を堪能したい。モロッコ料理は先住民族ベルベル人の料理をベースに、中近東やアフリカ、ヨーロッパなどの多様な文化影響を受けている。ホテルの観光客向けのメニューでなく、本場の家庭料理を味わうことができる。シャウエンは山間部の街だが、地理的に地中海が近く、シーフードが美味しいことで知られている。特に「魚のタジン」は訪れたらオーダーすべき一品である。帰り道では、「ウタ・エル・ハマム広場」に建ち並ぶブティックで友人へのお土産散策を。モッロカンブルーのタイルや薫り高いスパイス、極彩色が鮮やかな小物はここでしか手に入らないものばかりだ。そして、モロッコ女性の必需品であるアルガンオイルも忘れてはならない。ハマムで必須のナチュラルオイルであり、オリーブオイルの約4倍のビタミンE を含む。アルガンツリーはモロッコ西部、砂漠のような大地に生息するため、その木の実は生命力の塊なのだろう。エキゾチックなモロッコの色んな表情を魅せる、憧憬の地シャウエン。そんな旅人を惹きつける蒼き宝石の魅力を紐解く旅はいかがか。