洛北に眠る未踏の地
ここはアマンが探し求めた桃源郷
雅やかな京の中心地から離れ、鷹峯三山に連なるひそやかな森の中に佇む「アマン京都」。先人の残した庭園を元に日本文化の枠を凝縮。それは自然との完全なる融合が遂げられた最先端の侘の姿である。
鬱蒼と茂る木々、苔を纏った石、微かに響くせせらぎ。一歩足を踏み入れるとなぜここが「アマン京都」に選ばれたのか、すとんと腑に落ちるだろう。自然そのものというよりも、もっと濃密などこか魂を揺さぶるような深い静謐に満ちた、不思議な力。洛北の外れ、鷹峯の山林へと続くこの地にはその昔、琳派の創始者、本阿弥光悦が侘びた風情を求め、徳川家康から許しを得て縁者とともに移り住んだという。彼ら芸術家はここで旺盛な創作活動を行った。時代は流れ、近代以降は、西陣織業を営む趣味人が数々の美術品を集める傍、庭園を設えるための巨石、名石を集め、独特の美学に 基づいて無数の石を配した。かつて紙屋川 庭園とも呼ばれたこの庭園は、自然に畏敬 の念を抱きつつも、その自然をさらに凝縮させている。それが浸透圧の原理に則って訪れた者の心身に沁み込んでいく。ひとことで言ってしまえばパワースポットなのだ。アマン京都はこの庭園を礎に作り上げられた、癒しのサンクチュアリである。無数の山紅葉や北山杉に囲まれ、黒を基調とした宿泊棟やレストランを内包するパビリオンはひっそりと隠れるように佇む。 客室の窓から見える濃淡さまざまな緑の庭は、 夜がまた素晴らしい。極力絞られた照明が樹木を照らし、その影が深い森の先へと続いていく。まこと美しき景色である。眠るのがもったいないと見とれるうちに夜が静かに更けていく。
鷲ヶ峯パビリオン
静謐なる庭園の借景を主役に捉えたパビリオン
鷹峯三山の麓は、盆地の京中心部に比べるとずっと高く、一日の中で寒暖の差が大きい。それゆえに四季の移ろいがはっきりと目に見えるのだという。春の若葉、夏の濃緑、秋の紅葉、冬の枯木立と、どの季節もそれぞれに風情があり、鮮やかな景色を心に残す。客室の窓はそんな自然を一幅の絵のごとく見せ、そして景色を主役とすべく内装は非常にシンプルに、無駄を削ぎ落としたミニマリズムで貫かれている。そもそもアマンのスタイルは、その土地土地の伝統文化を重んじることから生まれる。飾り立てず、すっきりとした直線で構成された空間は、畳と障子を基本とする和の世界を思わせる。
日本人は無の中に床の間という特別な空間を設え、一幅の掛け軸と一輪の花、あるいは一枝を挿し、室内にいながらにして季節を想った。それと同じように、ソファに身を預け、ただひたすら窓の外を眺めてみよう。時とともに変わりゆく日差しを受けて樹木の輪郭が変わっていく様を、言葉にすることなくそのまま受けとめるのみ。自然との無言の対話が心を澄まし、癒してくれるのを感じるであろう。アマンがゲストに差し出す“平和”とは、こういうことなのではないだろうか。
「アマン京都」には60㎡のスタンダードルームの他に、2ベッドルームの「鷲ヶ峯パビリオン」(241㎡)と1ベッドルームの「鷹ヶ峯パビリオン」(165.7㎡)がある。鷲ヶ峯パビリオンは一段と高い石垣の上にあり、東向きの窓からは比叡山を借景に庭を一望する。秋には楓が燃えるように色づき、照り返しでリビングルームもほんのりと橙色に染まるのが艶かしい。テーブルの上には季節のウェルカムフルーツ。秋には葡萄や林檎、春には苺、夏はさくらんぼといった具合で、ベージュやダークブラウンで統一された空間に美しい差し色をもたらす。ミニマリズムと温かさが溶け合った空間はいかにもアマンらしい。
鷹ヶ峯パビリオンのベッドルームのリビングエリア。畳敷きに西陣織のカバーで包んだクッションなど、ほっと寛げる和のスタイル。窓の外を眺めながら朝のお茶を楽しみたい。
同じパビリオンも夏には違った景色となる。屋外は京都特有の厳しい暑さでも窓に映る鮮やかな緑は目にも涼しい。よく冷えたシャンパンを味わいながら、夕暮れ時をまったりと過ごす。木々の影が深くなり、夜の闇に沈んでいく様子に「夏は夜」の有名な一節が思い浮かぶ。
自慢の一つが大型の檜風呂。湯を張るのに20分はかかるが、入ればその大量の湯による浮力で体がふわりと浮く。体の芯から疲れを解きほぐしてくれる魔法の湯船だ。バスルーム全体は石のグレーと天然木で統一された、これもまたアマンらしいミニマリズム。
ベッドは低く柔らかめ。寝そべって窓の外を眺めるうちに、ハリがありながら優しい肌触りのリネンが体を包み込み、いつしか深い眠りへと導びかれる。
鷲ヶ峯パビリオン
Chef ‘s Table
室内にシェフズテーブルという意外
旅の大きな楽しみの一つ、食。その行き先が美食で知られる京都であり、そして土地の食文化に最大の配慮を心がけるアマンとなれば、自ずと期待も膨らむというもの。さまざまなフードエクスペリエンスが用意されているが、「鷲ヶ峯パビリオン」ステイならば、ダイニングルームでのシェフズテーブルを楽しんでみたい。純粋な和食よりは、地元の素材を使い、和のエッセンスを取り入れながらもジャンルの枠を取り払った、アマンらしい自在な料理をリクエストしよう。キッチンのカウンターでは二人の料理人が手際よく料理を仕上げていく。クッキングショーはいつでも最高のエンターテイメントだ。プレゼンテーションのコツを見つけたら今度自分でもやってみようと脳裏に焼き付ける。プロのテクニックを目の当たりにして思わず感嘆の声が出てしまうかもしれない。
一皿完成するごとに運ばれてくる料理を味わいながら、京都ならではの独特の伝統食材を厳選し、積極的に取り入れているアマン京都のこだわりやユニークな使い方など、シェフとの会話に花が咲く。ただ美味しいだけでない、愉快極まりない至福のひとときだ。
地元産を中心に日本各地の優れた食材を使い、柔軟な発想で一皿に仕立てる。作り手の経験と感性が表れる料理は、どうしてここに行き着いたのか?という謎解きが楽しい。例えばホテルの名前を冠した「アマン京都フィッシュアンドチップス」。フィッシュアンドチップスといえばイギリスのパブの定番だが、まずそのイメージを完璧に覆すプレゼンテーションに唸らされる。あのシンプルな料理がここまで自在な変化を遂げるとは、驚きのひと言だ。またデザートの「黒糖と苺のパリブレスト」はその美しい色合い、黒糖がもたらす奥ゆかしい甘みに、フランス伝統を軽々と飛び越えた新しさを感じる。こうした料理の秘密が目の前で明かされていく、これこそシェフズテーブルの醍醐味である。
庭を眺めるダイニングルームは、木のテーブルとベージュカラーのチェアがゆったりと落ち着いた雰囲気を醸し、 クロスではなくランチョンマットを用いたところが アットホームで心 地よい。 センターに控えめに飾られた季節の花 で、そこはかとなく和を感じさせるなど、いかにもアマンらしい過不足のない完璧なセッティングだ。
The Living Pavilion by Aman
縁取られたアマンの庭園
自然の懐でいただく季節の恵み
約24,000㎡という広大なアマン京都の敷地の中心は、オールデイダイニングの「ザ・リビング パビリオン」である。床から天井まで届く窓の外にはテラスが設けられ、その先はホテルを設計した建築家ケリー・ヒルが愛し、その名前を冠した庭園が広がる。リラックスした雰囲気の中でこの美しい景色を眺めながらいただくのは「Land to table」、つまり地産の食材を駆使した料理。新鮮な素材の持つ個性を最大限に活かしつつ、インターナショナルな感覚と高いテクニックを駆使し、季節の恵み溢れる軽やかでボーダーレスな料理は、ひと口食べるごとに 自然の恵みがほとばしる。
朝食は和食または洋食を選ぶのだが、和食ではワゴンサービスで供される湯豆腐がとりわけ美味しく、洋食では産みたての有精卵を好みに応じて調理してくれるとあって、どちらにするのか迷うところ。いずれを選んでも有機野菜のサラダを始め全て彩見事で、 気持ちの良い朝の目覚めとなるのは確かだ。
鷹峯
食文化の粋を極めた二十四節気の旬の味を堪能する
日本の料理の粋が集まると称えられる京都においてアマンが日本料理に込めるのは、琳派創始者である本阿弥光悦の精神。「鷹庵」ではさまざまな芸術分野において独創的なスタイルを展開した光悦に敬意を表し、古来伝統の二十四節気を取り入れて、旬の中でも走り、盛り、名残と移り変わる食材を細やかに使い分け、繊細かつ印象深い料理を提供する。磨き上げられた無垢板のカウンターに着き、目の前で仕上げられていく料理を味わいつつ、ふと日本の食文化に想いを馳せる。器の使い方の妙もまた楽しみであり、目で味わうことはやはり大切なのだ。そして日本酒にしろ、ワインにしろ、日本料理は酒をねだるのが困りもの。美味しいものは美酒とともに、畢竟真理なのだから致し方ないが。
Afternoon tea
予約が取れないとも言われるほど人気のアフタヌーンティーは、2段の重箱仕立て。1段目は季節の食材を駆使したセイボリー、2段目は和菓子に見立てたスイーツ、どちらも見目麗しく愛らしい。さらに自家製のジャムや蜂蜜を添えたスコーン、目の前でこんがり焼き上げ、みたらしなど3種類の味わいで供される団子も。20種類以上ものティーセレクションから自分好みのお茶を探して色々試してみるのもまた楽しいものだ。
Garden Terrace
「ザ・リビング パビリオン by アマン」では季節に応じたさまざまなプランが用意されている。春から秋にかけてはガーデンテラスでのBBQがおすすめだ。毎年テーマが変わり、たとえば南米の焼肉料理へのオマージュ「アサードmeetsアマン京都」では、京地鶏や黒毛和牛のハラミのグリルを主役に、南米風ミートパイのエンパナーダやペルー風セビーチェも味わう。緑の木々から吹き抜ける風を感じながらのBBQ、ホリデー感を満喫したい。
Evening Beer on the Terrace
夏の夕、テラスでの寛ぎタイムに欲しくなるのがビール。緑滴る青もみじを眺めながらの夕涼みビールは、4種類のクラフトビールをミニグラスでテイスティングするという趣向。香り、味わい共にそれぞれ個性的なビールと、その個性に合わせて仕立てられたおつまみを共に味わう。二人で分け合って、どれが好みかを探求してみるのもいいだろう。お気に入りが見つかったらビールをオーダー。いつもとは違うビールの世界を垣間見る夕涼み、素敵な夏の夜の幕開けだ。