天を衝くパイネ山との邂逅
広大無辺な大地に現れた壮観ロッジ
広大な草原に悠然と横たわるロッジ。窓からは雪をいただくパイネの山々の美しき姿を真正面に捉える。この眺めは夢か現か。どれほど見つめても足りぬと思わせる、これぞ真の絶景。地上に残された最後の楽園だ。
青い水を湛えた湖の向こうに雪を頂く峰々が天に向かって聳える。大地には常に風が吹き、灌木が地を這うように覆っている。ここは地球に残されたフィニス・テラエ(最後の地)だ。「ティエラ・パタゴニア」はトーレス・デル・パイネ国立公園の東端サルミエント湖畔に佇み、湖の先に三つの塔(トーレス)のような切り立った岩峰、そして標高3050mの雄大なパイネ・グランデ山を正面に望む。
パタゴニア広しといえど、これを超える絶景ロケーションはそうそうないであろう。チリ人建築家が設計したホテルの建物は、草原に埋もれるように低く、曲線を描きながら横へと広がっている。風の大地と呼ばれるパタゴニアの自然を表現したのだという。使われている木材は当地原産のレンガ(パタゴニアンチェリー)で、風雨に洗われると独自の銀色になる。あたかも動物が身を隠すかのように周辺の景色にすっかり溶け込んでいるのだ。このホテルはパタゴニアの大自然を満喫することを念頭にあらゆることが整えられた。冒険旅の“基地”といえよう。トレッキング、乗馬、野生動物、ウォッチングなどのアクティビティを楽しみ、そして夜は快適なリラクゼーションに耽る。スパで体をほぐし、暖炉の火を眺めながら微睡むのもいいだろう。しかし何よりも心を癒すのは、窓からの景色だ。ゆっくりと宵闇に沈んでいく山並みは、至高のナイトキャップである。
TIERRA PATAGONIA IN
TORRES DEL PAINE
眼前には圧倒される大地
木の温もりに包まれた壮麗なディティール
都会と自然の中では価値観が変わってくる。例えば、時間の過ごし方。無駄なく移動し、物事をテキパキと進めることに価値があるのは都会での暮らし。一方、自然と対峙する時は、その一瞬一瞬を慈しみ、大切な思い出として体の中に刻み込んでいくことに重きを置く。ティエラ・パタゴニアでの滞在はまさしく後者である。
朝、目覚めると窓の向こうにはパイネの山々の雄姿が見える。晴れていればその鋭い稜線がくっきりと、天候が荒れ模様だとしてもドラマチックに移り変わる自然のエネルギーを感じることができる。ベッドから身を起こし、しばしこの大自然劇場を堪能することこそ、最上の贅沢と言えよう。だからゲストルームは全て窓を主役にしている。とりわけスイートは一階のベッドルーム、そして二階のリビングルームも視線が外に向かうように設えられている。
インテリアは木をふんだんに使い、自然の木の枝ぶりを活かしたオーナメントも含め、徹底的にウッディな世界だ。戸外と屋内が一体となり、いつも自然の懐に抱かれている感覚に陥る。しかも、ゲストルームに限らず、ダイニングルーム、ラウンジ、そしてスパに至る全てが、このコンセプトのもとに作り上げられている。ゲストルームよりも一段と大きな開口部が雄大なパノラマを繰り広げ、滞在中は常に山と湖を感じられるのだ。
特にスパでは、温水プールに入りながらサルミエント湖越しのパイネ・グランデ山を眺めるという、文字通りオンリーワンの体験が待っている。
天候が許せば外のテラスのホットタブに浸かるのもいい。時折通り過ぎるグアナコの散歩姿を見ながらのスパタイムはちょっとしたエンターテイメントだ。日中は外でリアルなアウトドアライフを満喫し、朝と夕は眼に映るアウトドアを楽しむ。ティエラ・パタゴニアにステイする真の魅力はこれを置いて他にない。
Romantic Dinner
パタゴニアの草原の中で、雄大なパイネ・グランデ山を眺めながらの食事はいかがだろう。風が常に吹き、天候も変わりやすい当地では夏でもなかなか実現は難しいが、運が味方をしてくれたら是非ともトライしてみたい。
これほどドラマチックな体験は人生においてそうあるものではないからだ。アペタイザー、メインそしてデザートと進むうちに、眼に映る景色も風と雲によって表情を変える。窓越しに見るよりもダイレクトに自然の動きが感じられ、まるで自然の一部になったかのような気分が味わえる。それは必ずや生涯忘れ得ぬ思い出となるだろう。
アクティブに活動した後はやはり美味しい料理でエナジーチャージしたい。ティエラ・パタゴニアでは、チリ伝統の郷土料理をベースに現代的な感覚でアレンジを加えたシンプルで滋味溢れる皿が楽しめる。南米といえば羊や牛などのアサード(炭火焼き)が有名だが、それに留まらず、じっくり煮込んだスープやオーブン料理といった家庭料理が実は非常に充実している。
素材はすべて地元の農園から届くものを使用しており、遠方から珍味を取り寄せるようなことはコミュニティとの共存、そしてカーボンフットプリントの観点からも良しとしない。新鮮そのものの野菜や香草を使い、丁寧にコンソメを引いてスープの下地に、またソースにして肉や魚にさらなる旨味をプラスする。奇を衒わないしみじみとした味わいは、窓から見える豊かな自然の景色と絶妙にマッチする。
Restaurant
レストランはラウンジを始めとするパブリックスペースと同様、シームレスにつながっている。仕切りがない広々とした空間で、窓からは雄大な景色を堪能できる。また、レストランからはテラスに出ることもできる。テラスからそのまま湖まで散歩するもよし、テラスでワインをお供に景色を眺めるもよし。気の向くままに自由な時間をひたすら満喫したい。
Terrace
大地の恵みを堪能しているという幸福感に心が満たされていくのを実感するのだ。メニューにはチリ料理の他に、イタリアンを始め、インターナショナルなエッセンスを加えたものやベジタリアンもある。毎日変わるので飽きることはない。それどころか、日本ではあまり出会う機会のない素材の使い方、調味のバリエーションの多彩さの虜になってしまうほど。さらにディナー前のアペリティフのひと時も忘れてはいけない。暖かなストーブの傍で、夕闇の色に似ていると言われる南米原産のベリー、カラファテを使ったカクテルをゆっくりと味わう。窓の外は次第に昏れなずみ、薪の爆ぜる音と人々のざわめきが心地よいBGMを奏でる。パタゴニアの夜は、昼とはまた違う深い歓びに満ちている。
CocktailTime
一日の終わりはバーラウンジで。ラウンドカウンター、あるいは窓辺のカウチに陣取り、今日はワインにしようかカクテルにしようかとひとしきり悩む。パタゴニアの夜の始まりだ。
Looking for the unseen view.
Enjoy more of PATAGONIA
自然の中でのびのびと生きる動物たちの姿は、感動を与えてくれる。南パタゴニアの希少な野生の命、そして、伝統の暮らしに深く根ざした牧畜。いずれにおいても、見るものの心に慈愛を呼び覚まし、忘れ得ぬ体験となる。
Picnic Lunch
愛嬌たっぷりのグアナコ、しなやかな野生美のピューマ、飛べない大型の鳥レアなどユニークな生き物が生息するパイネ国立公園は、その生態系を守るためにさまざまなルールを定め、ティエラ・パタゴニアも“大地”と自らを名乗るだけあって、その遵守と自然保護の活動を積極的に行なっている。人間の侵入による自然にもたらす影響を限りなくゼロに近づけ、そこに生きる鳥や動物、植物の世界を壊さないことをフィロソフィとするエクスカーョンは、動物をただ観察するだけではない、人間として何ができるのかを深く考えさせてくれる貴重な体験だ。
Adventures of a Patagonia rhea
ハイキングや乗馬といったエクスカーションの他に、さらにスペシャルな体験をしたいというリクエストにもティエラ・パタゴニアは柔軟に応える。例えば、パタゴニアの伝統的な暮らしや文化をダイレクトに知りたいという希望には、当地でエスタンシアと呼ばれる大農場への訪問をオーガナイズしてくれる。
牧羊犬の見事な働きぶりや毛刈りを見学したり、馬に乗って農場を散策したり。さらに望めば羊の群れの中でのピクニックランチも可能だ。臆病だけれど好奇心の強い羊たちとの触れ合いもまた、パタゴニアならではの体験である。野生動物の生態とはまた異なった、人と動物が重ねてきた南米の長い歴史に思いを馳せるひと時だ。
パイネ国立公園は、氷河が作りした山と湖が織りなす稀有な地形が特徴だが、豊かな生態系が保存されていることでも知られている。植物はもとより、鳥や動物も固有の種が多く、また、そうした生き物と時に間近に遭遇することができる。もちろん、野生なので近づきすぎることはご法度、彼らの世界をほんの少し共有させてもらうのである。
ティエラ・パタゴニアは動物が多く生息する国立公園内の東側に位置することから、スタッフはどのような種がどこに行けば見られるのかを熟知している。専属のプロフェッショナル・ガイドと行う前日夜のミーティングではデフォルトのハイキングプランに上乗せしてさらに見たいもの、体験したいことを伝えれば、出来うる限り希望を叶えてくれる。例えば、パタゴニアにおける食物連鎖のトップに君臨するピューマは、当地に50〜100頭しか生息していない、まさに希少種で、通常なかなかお目にかかれないのだが、その生態を知り尽くしているガイドの案内で観察すると、周囲の風景に見事に溶け込んでいる美しい姿を目の当たりにすることができる。ライオンやトラとは違う、ネコらしい愛嬌ある仕草を見られたらラッキーだ。
その他にもダチョウに似た大型の鳥レア、(現地語ではニャンドゥー)やキツネ、さらに群れをなして移動するラクダの仲間のグアナコなど、軽く半日のハイキングでも意外なほど多くの動物に遭遇できる。もちろん、もっとディープにパタゴニアを知りたいという人向けのプランもある。氷河、パンパ(現地語で木のない草原)、湖、森、山のパイネ国立公園フルコース、ほとんど人が訪れない湿原や砂漠を行き、山からの絶景を望むコースなどバリエーションは尽きない。どのプランを選んでも、一日の終わりにはホテルでの寛ぎの時間が待っている。心地よい疲労感は満ち足りた気持ちを生む。そんな思いを新たにしてくれる極上の南半球バカンスだ。