美意識が満たされるリゾート
もてなしと華やぎに酔う建築美
マラケシュに新たなルレ・エ・シャトーお墨付きリゾートが誕生。1930年代の建築様式を残した宮殿は伝統と現代の素材を巧みに融合させている。街の喧騒から離れた、バカンスリゾートを心の赴くままに散策したい。
“食とおもてなしによる、より豊かな世界”をスローガンに掲げる、世界的なホテル・レストランの加盟組織であるルレ・エ・シャトー。従来、参加は開業から数年経った施設のみが対象だったが、この度初めてオープン前のリゾートが新たに加わった。その一つがモロッコのマラケシュ国立公園内に佇むパレ・ロンサールだ。マラケシュの中心地であり、2009年に世界無形遺産に登録されたジャマ・エル・フナ広場から目と鼻ほどの便利な立地ながら、騒がしい外界とは切り離された静寂が広がっている。約 3000 ㎡の庭園に何百本ものバラが咲き誇るこの壮麗なリゾートは2019年 2 月にオープンした。フランス語で「宮殿」を表す「パレ」を冠した、1930 年代の面影を色濃く残す建物には、圧巻のファサードが満点星の明媚に言葉を失う。現在の建築方法では再現できないだろうと言われるほど精密なデザインが施された建物と庭は、まさに地上に現れたエデンの園だ。新進気鋭のフランス人インテリアデザイナー、ジル・デス氏の目指した文化の融合の最終形がここにはある。流れる水音と青々とした木々が砂漠に忽然と現れたオアシスを一層華やかに彩る。
GRAND PAVILION
気分でパビリオンを選ぶ。類まれなるセンスに脱帽
遊び心溢れるマジョレル・ブルー
マラケシュを愛した人物として知られるイブ・サン=ローラン氏。「モードの帝王」と評されたこの天才デザイナーが愛したこの地のマジョレル・ブルーだ。そして庭園を創りあげたフランス人画家のジャック・マジョレル氏に因んだカラー、それがマジョレル・ブルーだ。目の覚めるようなブルーを基調としたこちらのパビリオンには、豹柄のアイテムがインテリアのポイントとして配置され、滞在する者を魅了する大人の色香が漂っている。遊び心と色気を楽しむのであれば間違いないだろう。
王者の品格漂う大人のブラック
新月の夜、月明かりのない砂漠のような漆黒をアクセントにしたブラックルーム。全ての色を吸収する色彩、黒。あえて黒を基調とすることで、部屋の細部にまで施された装飾のデザインの緻密さが際立つ。偶像崇拝を禁じるイスラム教は、人物や動物を描くことができず、そのため幾何学的な文様が発達した。余計なものを削ぎ落とした洗練された色とデザインがシャープな雰囲気を醸し出す。
可憐な薔薇の薫るローズピンク
モロッコの名産であるダマスクローズ。乾燥した砂漠地帯に一年のうち数週間しか収穫できないこの貴重な薔薇は古代から世界中の美容家を虜にしてきた。そんな薔薇の色を思わせる優しいピンクが瑞々しく若々しい。この包み込むような優しい色合いはモロッコ特産の赤土の日干しレンガの色でもある。自分の部屋にいながら、見渡す限りピンクの建物が建つ、マラケシュの街並みを彷彿とさせるローズピンク。訪れる人の好みに合わせてパビリオンを選べるのもこのリゾートの醍醐味だ。
妖艶なマゼンタレッド
最後に紹介するのはパリのお洒落なカフェを思い出させるレッドルーム。パレ・ロンサールのインテリアを担当した世界的なデザイナー、ジル・デスならではの粋な遊び心を感じる優雅な客室。華やかな社交界のサロンのような客室には、カラフルなソファーが置かれ、フランスとモロッコの魅力が溶け合っていることを肌で感じられる。部屋を歩けば、色とりどりなボンボンやマカロンの包みを開けるような楽しみが詰まっている。女性のハートを鷲掴みにするロマンティックな演出も用意したい。
旅慣れた男が手配する
SWEET DINING
Romantic Dinner
モロッコの澄んだ空気が満点の星を演出する、二人だけのロマンティックなディナーはいかがだろうか。マラケシュの燃えるような夕焼けが終わると、ゆっくりと夜の帳が下がり、漆黒の空に星々が煌き出す。天空の星と、パレ・ロンサールの客室の輝きが二人を照らし出す。特別に設えたディナーテーブルにつけば、このリゾートで最も美しいと評されるテラスを独り占めできる。樹齢1,000年を超える椰子の木々が揺れ、庭に咲き乱れた薔薇の香りが漂う。壮大なアトラス山脈と、モロッコの肥沃な大地が産み出す食材が自らのインスピレーションの源だと語る、世界的なシェフ、アレクサンダー・トーマス氏の洗練されたモロッコ料理。水と緑のオアシスで、雄大なマラケシュの自然そのものを堪能してはいかがか。
Le Jardin D’hiver
2015年の創設以来、パリのユネスコ本部で開催される世界的な建築賞であるベルサイユ賞。この表彰において、世界で一番美しいレストランに選ばれたル・ハルディン・イヴェールのサロン。世界でここにしかないオーダーメイドの設えに、この名誉ある賞を受賞したサロンとしての格式が表れている。ヨーロッパ風とムーア風を融合させたデザインで、伝統と革新が共存している。感性を磨きながらゆったりとティータイムを過ごすことができる。館内に溢れる鳥のオーナメントやデザイン。童話「青い鳥」の主人公のように幸せの鳥を探して贅沢な時間を過ごすのもこのリゾートならではの過ごし方。
The Bar
ル・ハルディン・イヴェールの一角にあり、赤いインテリアが目を引くザ・バー。壁や椅子に使用されている真紅は、預言者ムハンマドを象徴する赤を取り入れたモロッコの国旗を連想させる。バーの装飾には、モロッカンデザインが多用され、モチーフの反復とリズムが見る者のバランス感覚を目覚めさせる。東洋と西洋の文化が融合したこの国は、イスラム教圏内としては飲酒に対し比較的寛容で、また西洋の影響でバー文化も花開いた。至高の一杯を卓越した芸術とともに飲み干したい。情熱的な赤色を主体としたインテリアで統一。ムハンマドを象徴する赤色は神への祈りや神についての思弁を視覚的に展開する役目を果たすと言われる。
Breakfast
朝、リゾートを歩くと、「スバーハルヘイル」と挨拶されるかもしれない。これはアラビア語で、「善の朝」を意味し、朝の挨拶に相当する言葉だ。1961年にイスラム教を国教に制定したモロッコでは、生活の至る所にイスラムの教えが反映されている。朝、目覚めたことを神に感謝し、出会う人に挨拶する。そんな素敵な言葉がぴったりと当てはまるような太陽の光輝くガラス張りのテラスで朝ごはんを摂る。リゾート自慢の庭を眺めながら体温まるミントティーと栄養たっぷりの朝食を味わいたい。
Cooking Class
パレ・ロンサールの広大な庭を散策すれば、芳しいハーブの香りに思わず足が止まる。自然の美しさをそのままに、細やかに整備された庭園は、ただ鑑賞されるだけではなく、新鮮な材料の宝庫としての役割も担っている。クッキングクラスでは、庭から摘んできたばかりの野菜やハーブを何種類も使用する。レシピだけでなく、豊かな自然に感謝し、共存してきたモロッコの人々の知恵も学ぶことができる。