プルミエ・クリュの一角葡萄畑に現れたのは、
クリスタルガラスの最高峰
一級品の貴腐ワインと、ガラス工芸の一流メゾン。
一見交わらないこの両者が、2018年にホテルという形で融合した。そして、
オープン早々に5つ星を獲得。ソーテルヌにおける珠玉の挑戦に迫ってゆく。
ソーテルヌといえば、言わずと知れた甘口ワインの頂点に君臨するエリアだ。しかし、近年の状況はあまり芳しいとは言えなかったようだ。 毎年の葡萄品質に左右され経営の難易度が高く、更に世界的な健康志向のブームにも押され、 甘いワインを前面に押し出したこの地区のシャトーは、運営に苦しむところも増えていた。 そんな中、新たな資本家の手に寄り、ソーテ ルヌでの経営に革新がもたらされようとしている。その代表格であるスイス出身の実業家シルヴィオ・デンツ氏は、世界中に現在7つのワイナリーを所有する、ワイン愛好家だ。ま た、2008年にクリスタルガラスの最高峰メゾン「ラリック」を買収したことで話題になった。そんなデンツ氏は、2014年、ここ「シャトー・ラフォリ・ペラゲ」までをも買収に成功する。当シャトーといえば、AOCソーテルヌのプルミエ・クリュに選ばれている11 のシャトーの1つ、つまり彼は歴史に名高い ソーテルヌシャトーと、唯一無二のガラスメゾンの、両業界のトップを手にしたこととなった。 そのような立場だからこそできる、高度な融合とプロデュースを実現し、満を持して2018年にオープンしたのが、「 Hôtel & Restaurant LALIQUE 」である。2018年はメゾン・ラ リックが創業130周年、シャトー・ラフォリ・ ペラゲの生産400周年という、まさに節目の年であった。それだけに、ホテルの入り口からレストランに至るまで、拘りに更なる熱意を感じる。
2018年、「ソーテルヌのシャトー体験を刷新したい」というデンツ氏の想いが込められ、 当ホテルはオープンし、ワイン畑の中に現れたガラス芸術に溢れたシャトーは数々の話題をさらった。そして、当たり前のように、オープン 早々に 5つ星を獲得したのだ。ここでは拘りの通り、他シャトーとは一線を画した甘美な情景が広がる。一流シャトーと一流のガラスメゾンが組み合わされ、広大な葡萄畑に現れた美しいガラス工芸の数々‥‥
煌いた芸術が溶け込んだ、他に類を見ないシャトーホテルなのだ。
ホテルではゲストのためにシャトーツアーも用意している 。ワイン誕生の過程を丁寧に説明され、最後にはワイン樽がずらりと並ぶ貯蔵庫に案内される。なんと、 丸ごとラリックのアートが施された、 ワイン樽まである。 もちろん世界に一つのオーダー品である 。ワインセラーには約35万本のワインが貯蔵されており、フラスコなどの一流ガラス工芸と併せて楽しむことが可能だ 。
Bar & Lobby
丁寧に作り込まれた内装は、ガラスメゾンが運営している強みがふんだんに活かされている。室内を見渡してみると、ソファーから小物に至るまで、芸術品が散りばめられていることに気が付く。流麗な曲線美、煌く透明な芸術を堪能しながら、ふと外を眺めればどこまでも続く葡萄畑。
LALIQUEがシャトーの中にある意味を感じさせる。
生誕400年のワインと創業130年アート
業界の頂点に君臨する
美食と芸術のマリアージュ
レストランに通されると、まず絵画のような一面の葡萄畑に心を奪われるだろう。まるで、ガーデンレストランなような開放感だ。そして、もちろんレストランでも、一流ガラスメゾンならではの装飾が各所に施されている。
天井には、琥珀色で覆われたシャンゼリゼ、クリスタルガラスのアート工芸は、あちこちに散りばめられているのだ。言うまでもなく、テーブルセッティングもラリックの芸術品で統一されている。クリスタルの上に並ぶカラフルなアペタイザーが、これからの芸術と美食の融合を期待させる。料理に至っては、メインシェフであるジェローム・シリング氏の、地元産ワインとのコラボレーションへの強い拘りがみて取れる。葡萄の搾り汁や、ハーブ入りワインなどをふんだんに活用された斬新な料理に驚きを隠せない。彼は幼少期からの夢である、感動の料理を提供することに挑戦し続けているのだ。
実際、オープンを早々にミシュラン1つ星を獲得し、更に昇格するであろうという声も多い。
さて、ソーテルヌに佇む、クリスタルとワインが融合したこの世界、あまりに非日常すぎて身近に感じられないこともあるかもしれない。しかし、実はラリックと日本は非常に身近な関係にある。古くから、日本には熱心なラリック・コレクターが多く存在しており、デンツ氏自体が、そうした日本の人々に直接、自分たちの製品を届けたいという思いを抱えていた。それを受けて、ラリック創業130年である今年、銀座に日本初のラリックの路面店がオープンした。創設者のルネ・ラリック氏自身が、日本文化から多くのインスピレーションを受けており、繊細さが要求されるガラス工芸と日本気質の丁寧さは、通じ合う部分があるのかもしれない。これを機に、美食と芸術のマリアージュを求めて、ソーテルヌまで足を運んでみてはいかがだろうか。
新たなマリアージュの扉がここに。
アルザス出身のジェローム氏。幼少期、自宅から数歩のレストランで食したアルザス料理に感動し、ごく幼い頃から料理人の道を志すようになった。生まれついての料理人であったといえるだろう。彼は世界有数の環境に身を置くために、ジュエル・ロブション氏や、地中海料理を世界に知らしめたロジェ・ヴェルジェ氏といった伝説のシェフの元で技術を研鑽した。その後、フランスのシャスレーにある2つ星レストラン・ギィ・ラソゼで7年間勤めあげ、数々の料理を考案した。
そして、新たな挑戦のために、 2015年「ヴィラ・ルネ・ラリック」総料理長に就任し、
現在は「レストランラリック」の総料理長として腕を振るっている
シェフのジェローム・シリング氏のモットーは地産地消。ただ、地元の素材を使うだけではなく、ホテルがこの地に存在する意味を常に考えている。ボルドーを代表する「葡萄」 という素材を、余すことなく料理に取り入れるというこだわりがあるのだ。ハーブ入りのソーテルヌソースでフォアグラを漬け込んだり、肉を柔らかくするために葡萄の搾り汁を利用したりと、前菜からデザートまで葡萄の繊細な香りを感じることができる。葡萄を通して、地の力を料理に取り入れ、個々の素材の本来持つ力を引き出しているのだ。そしてマネージャーが、この日のスペシャリテとして勧めてくれたのは、厚さ10cm程の"コー ト・デュ・ブフ"。シェフが広大な葡萄畑の目の前でグリルするため、肉の香ばしさと葡萄 の華やかな香りがマリアージュし、より食欲を引き立てる一品だ。レストランを囲む葡萄畑の総面積は32ha。除草剤を使わず栽培された葡萄は、活き活きと
輝き彼の料理を更に繊細された味わいへと、昇華させている。