ライカとグローブト・ロッターのコラボレーションモデル発売に際し、グローブ・トロッター銀座店にてスペシャルイベントを開催。
旅好きとしても知られる構成作家・脚本家の小山薫堂氏と、グローブ・トロッター アジアパシフィックの代表である田窪寿保氏が軽快なトークを繰り広げた。
小誌ではそのトークショーの一部を抜粋し、旅とモノについてのお話を読者にお届けする。
「ORANGE AND
PARTNERS」CEO
小山 薫堂
1964年熊本県生まれ。放送作家、脚本家。N35inc・株式会社オレンジ・アンド・パートナーズ代表。テレビ番組の代表作に、「ニューデザインパラダイス」など。映画脚本を手掛けた「おくりびと」は、第81回アカデミー賞外国語映画賞、第32回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞。現在は、東北芸術工科大学の教授も務める。
「BLBG」CEO
田窪 寿保
1966年東京都生まれ。青山学院大学大学院国際経営学修士(MBA)修了。1989年に英国ヴァージンアトランティック航空日本支社の就航時、オープニングメンバーとして入社。現在は、BLBG株式会社の代表取締役とグローブ・トロッター アジアパシフィック代表を兼任する。著書に『ジェームズ・ボンド 仕事の流儀』など。
”旅の儀式に欠かせないのは、
トラベルノートとパンツです。”
”旅に必要なのは緊張感を持つこと。
準備は当日の朝までしません。”
田窪:薫堂さんのような方が、グローブ・トロッターのトロリーを持ち、ライカのカメラを持って旅行されるのが一番絵になると思います。まずは、旅に行かれる際のパッキングについてのこだわりから教えて頂けますか?
小山:僕は結構小分けにするタイプなんです。洋服と下着を分ける際には、羽田のJALにあるテクニカルセンターの売店で、「パイロットも愛用しています」という触れ込みで売っていた収納袋を使っています。表側がメッシュになっており、そこにシャツなんかを入れます。裏側は見えないようになっているので下着を入れています。1週間分の着替えが収まるので、これを横置きでグローブ・トロッターに入れるとちょうどよくフィットします。
田窪:測られたわけではないですよね?
小山:偶然収まりました(笑)。あとは、お風呂が好きなので海外に行く際には入浴剤のバブを持っていきます。ショックなのはバスタブがない部屋に当たってしまった時ですね。
田窪:バスタブがない部屋は滅多にないんじゃないですか?
小山:意外にあるんですよ。たとえば、ニューヨークのバカラホテル。部屋によってはバスタブがないんです。
田窪:たしかに、外国では入浴する習慣はあまりないですもんね。
小山:ところで、先ほど聞いてびっくりしたのですが、田窪さんは日本に住民票がないんですか?
田窪:そうなんです。長いことイギリスに住んでおりまして。
小山:税金もロンドンに納めているんですか?
田窪:そうですね。
小山:じゃあ、ふるさと納税もできないですね(笑)。
田窪:できないですね(笑)。
小山:ロンドンはものすごく家賃が高いですよね。
田窪:日本の約二倍のイメージです。少し郊外へ行けば、そこそこ広くて安い家もありますが。
小山:かつては食事がまずかったですが、今ではかなり美味しいですよね。
田窪:80~90年代のイギリスは本当に食事が不味かったですよね。
小山:80年代にロンドンへ行った際に、「一番美味しいのは病院で出される朝食」と聞きました(笑)。
田窪:おっしゃる通りでしたよ(笑)。
小山:フィッシュ&チップスは美味しいですよね。
田窪:話は戻りますが、私は事前に旅の準備をすることはほとんどありません。出発当日の朝に適当にパッキングをして、緊張感を持って出かけるんです。必ず持って行くものと言えば、ノイズキャンセルのヘッドホンくらい。薫堂さんは、旅へ出かける際に必ず持っていくものはありますか?
小山:旅へ出かける際に必ず行う儀式がありまして。一つはトラベルノートを持って行き、旅の前の高揚感と終わった後の気持ちを綴ること。あとは、パンツを持っていくんですよ。
田窪:もちろんパンツは持って行きますよね(笑)。
小山:そうなんですが、一番古いパンツを持っていって、捨てて帰るんです。
田窪:なぜですか?
小山:きっかけは今から10年ほど前に、ある番組のロケで北京へ行った時。なにとなくパンツを買ったんですが、当時の中国のパンツなので、非常に安っぽい作りでウエストのゴムもゆるかったんです。そのゆるさが太った身体にちょうど良くて。
田窪:気に入られたわけですね。
小山:何年も愛用していたらついに穴が空いてきまして……。
田窪:普通は何年もはかないんじゃないですか?
小山:旅でLAへ行った時に、ふとパンツの気持ちになって考えてみたんです。『中国で作られて、店頭で待っていたら突然日本人がやってきて買われた。まさか、この俺がなんで日本人に履かれなければいけないんだ。だけど、意外と世界の色々な所へ連れて行ってもらえた……』。北京で生まれたこのパンツをロサンゼルスのペニンシュラで捨てた時に、彼の一生は幸せだったのだろうかと思ってしまったんですよね。
田窪:パンツの“おくりびと”になられたんですね。
小山:それ以来、旅先に履き古したパンツを持っていき、良いホテルで捨てるというのを儀式にしています(笑)。
田窪:素晴らしいですね。ちゃんとモノの人生を全うさせてあげたわけですね。普段から物持ちは良い方ですか?
小山:捨てられない方ですね。たとえば、今でも僕が乗っている1991年モデルのレンジローバー。91年に購入して、調子が悪かったので97年くらいに一度手放したんですね。ところが、今になってまた欲しくなってしまったんです。人生で一番楽しかった20代の頃に乗っていて、色々な女の子を助手生に乗せてデートをした想い出深い車だったので。そこで、ラジオ番組で探しているという話をしたところ、それを聞いていた方から連絡を頂きました。山梨の方だったのですが、1週間ほど前に事故に遭われて、部品取り用にオークションで売ってしまったと。それから、落札者の方に連絡を取り、新潟まで会いに行ったんです。事情を説明して、「大切な車なので20万円で買戻させてください」と言ったのですが断られました。その方もこの車を2年くらい探されていたようで。でも、「あなたの気持ちはすごくわかる。どうせここまで壊れているので、部品を少し取った後タダで差し上げるからそれを修理したら良いじゃないですか」と言ってくだいました。ところが、感謝の気持ちを伝えた後、「どの部品を取るんですか?」と聞いたら、まさかの助手席だったんです(笑)。結局、中古のレンジローバーを買ってその方に差し上げました。そんなわけで、今僕の手元に戻ってきました。
田窪:素晴らしいストーリーですね!これぞ本当のモノとの付き合い方です。