自然の情景や食材の背景、料理のストーリーまで堪能できる
代々木上原の小さなレストラン。
スタイリッシュな飲食店がひしめき合う激戦区・代々木上原の駅前から程遠く、井の頭通りから一本脇道に入った場所に「セララバアド」はある。閑静な住宅街の一角とは思えないほど豊かな緑に囲まれており、カウンター2席、テーブル14席というミニマルな作りが友人の家のような落ち着きを与えてくれる。
オーナーシェフは、「エル・ブジ」を始め、数々の有名レストランで修行を積んだ橋本宏一さん。その華やかな経歴とは裏腹に、「モダンガストロノミーを気軽に」というコンセプトを掲げ、コース料金を他店に比べてリーズナブルに設定している。価格以上の体験が受けられると評判を呼び、現在では数ヶ月先まで予約が埋まっているという。お店の名前は宮沢賢治の童話に由来しているが、料理にもその文学性を垣間見ることができる。たとえば、料理を飾るメッセージ・イン・ア・ボトルを開けるとシェフの書いた物語が登場したり、一皿一皿に四季折々の自然の風景が落とし込まれている。また、厳選した国内農家から届いた旬の食材を使用しているので、ただ驚くだけではもったいない。食材が語る情景にまで思いを馳せ、料理が紡ぐストーリーを余すことなく味わっていただきたい。
驚きの先にある、料理のストーリー
「高級食材のアワビやフォアグラ、トリュフなどをふんだんに使うような料理も経験してきましたが、自分が本当にやりたいのはそういう料理ではありません。むしろ、もっと身近な食材を用いてお客様を感動させられる料理を作ることに興味があります。単に驚きを与えたいというよりも、料理の背景にあるストーリーを表現したいという気持ちが強いんです。だから、あくまで季節感や自然の情景を表現するために、テクニックがあると思っています。たとえば、液体窒素を使う料理にしても、“究極のフレッシュ感”を表現するために取り入れています。ビジュアルから食材にまで思いを馳せることで、一皿一皿の物語を楽しんで頂くことができるのが魅力だと思います。実を言うと、昔はあまりお客様と接するのが得意ではなくて、どちらかと言えば『誰も作ったことのない料理を作りたい』という気持ちの方が強かったんです。ですが、今は多くの方に自分の作る料理を楽しんで頂きたいと思っています。だから、できる限りコースの値段設定を上げないように努力しています。一部のグルメな方だけではなく、自分と同じような身の丈の人にも、気兼ねなく食べに来て頂きたいです」
大阪のホテルやレストランで料理の基礎を学んだ後、「エル・ブジ」の料理に感銘を受け渡西。
「エル・ブジ」「マルティン・ベラサテギ」などの星付きレストランで修行をする。帰国後は、
「サンパウ」での勤務を経て、マンダリンオリエンタル東京の「タパス モラキュラーバー」の料理長に就任。2015年に「セララバアド」をオープン。